我が家の娘には自閉症があり、感覚過敏がありました。
保育園で粘土遊びをする時間も、粘土の感触が嫌で触れることができず、みんなと一緒に参加することが難しい。
自分だけできないのが悔しくて、機嫌が悪くなることもありました。
発達障害の子どもにはこうした感覚過敏がよく見られます。
光や音、感触などの刺激を過剰に受け取ってしまい、本人にとって大きなストレスになることも少なくありません。
感覚遊びは発達に良いとされていますが、感覚過敏があるとそれ自体が難しいこともあります。
そんな娘が、今ではクッキーを一緒に作れるようになりました。
ここでは、我が家で実践した感覚過敏へのアプローチと、その過程を紹介します。
はじめに|発達障害児で感覚過敏を持つ子と親へ

感覚過敏は、発達障害の特性のひとつです。
感覚過敏があると、刺激を過剰に受け取りやすくなり、子どもはストレスを感じやすくなります。
感覚過敏がどんな感覚に出るかは、子どもによってさまざまです。
我が家の娘の場合は、触覚に過敏さがありました。
本来、粘土などの感触遊びは、手のひらや足の裏などの感覚神経が豊富な部分を刺激することで、発達に良いとされています。
また、さまざまな感触を実際に触って学ぶことは、危険予測にもつながります。
たとえば、石を触ることで「硬い」「ぶつかると痛い」と知ったり、「ざらざら」「ぬるぬる」といった表現を覚えたりすることも、感触遊びの中で生まれていきます。
しかし、感覚過敏があると、その感触自体が苦手で触ることができなくなってしまいます。
無理に勧めることは本人にとって強いストレスになりますが、「できない」をそのままにしてしまうことも、本人にとってはストレスになることがあるのです。
我が家の娘の感覚過敏

我が家の娘の感覚過敏は音と触覚です。
音への過敏さはイヤーマフの購入と使用で対策しましたが、触覚への対策には悩んでいました。
新しい感触のものや見たことのないものは触りたがらず、少し触っては逃げていました。
つま先立ちで歩く姿も多く、砂浜や芝生など裸足で歩くことを嫌がり、慣れるまでしばらくかかっていました。
保育園での小麦粉粘土、挑戦と失敗

娘の通う保育園では、感触遊びの一環として、小さい子でも安全に使える小麦粉粘土や片栗粉粘土を作って遊ぶという日がありました。
小麦粉に水や食紅を混ぜて色を付け、粘土のようになる感触を楽しむというものです。
保育園の先生からは「今日は少しだけ触ってみれました」等成功体験として様子を聞く日もあれば、まったく触れない日もありました。
「あんまりこういう遊び好きじゃないですか?」そう聞かれると、何と答えたら良いのか分からず、モヤモヤした気持ちになっていました。
詳しく話を聞くと、他の子は楽しそうに興味津々に触りたがるのに対し、娘は怖がってしまい、触りたがらず、触ってもちょんと指先で触っておしまいだったようです。
のちに、保育園での写真を見ると、小麦粉粘土の時は粘土に群がる他の子から離れて、慣れた先生に抱っこされたまま険しい表情で小麦粉粘土を見ている娘がいました。
他の子はできているのに、うちの子はできない。
まさにそれに直面した瞬間でした。
焦って無理させていたかもしれないと気づいたこと

他の子はできているのに、うちの子はできていないという事実に直面した時は、正直焦りもありました。
「集団生活で適応していけるんだろうか」という不安が大きかったように思います。
発達障害があり他者へ関心が薄く、相手の気持ちを推し量ることが難しい娘ですが、親が不安を感じていることは、何らかの形で感じ取っていたように思います。
「何かわからないけど不安」という状態になっていたのか、親が不安になればなるほど、娘の機嫌が悪くなり、保育園での活動にも参加できない日が増えていきました。
「指で少しでも触れた」状態だったはずなのに、「まったく触れない」日のほうが多くなっていったのです。
あの険しい表情の写真を見たときと、焦れば焦るほど娘の機嫌が悪くなり、うまくいかないことが増えていく日々の中で、ふと「このままじゃだめだ」と思うようになりました。
焦っていたのは、娘ではなく自分自身だったのかもしれません。
できるようになりたかったのは娘ではなく、できるようになった娘を見たい私自身だったのではないか。
そう気づいたとき、少しずつ「無理させない」を意識するようになりました。
小麦粉だけ、色付き粘土、親と一緒に~小さな一歩の積み重ね

保育園での小麦粉粘土の時間に険しい表情で遠くから眺める娘。
そんな表情を見ていると、「きっと興味はあるけど怖いんだ」「できないのが悔しいのかな」と感じるようになりました。
本当に興味がない時や活動に参加したくないときは、一人で別の活動をするからです。
保育園の先生と相談し、小さな一歩を積み重ねる作戦を立てました。
STEP①小麦粉だけ触ってみる
まずは水を含ませる前の粉の状態だけ触ってみることにしました。
水を含ませると感触が変わり、べたべたした感触やまとわりつく感じが怖いと感じるかもしれないと思ったからです。
砂場で遊ぶことも苦手だったので、私自身もドキドキでした。
はじめは指先でちょんと触っただけでした。
でも、まず一歩目を踏み出せた!と娘とともに喜びました。
それから少しずつ、「今日は指2本」「今日は手のひら全体で」と繰り返していくことで、だんだんと小麦粉の感触に慣れて来て、笑顔が見られるようになってきました。
娘が楽しめるうちは無理に粘土状にせず、意欲のある時に少しずつ触る、を繰り返しました。
STEP②色付き粘土
小麦粉に触れるようになってはきたもののまだ粘土状になると怖い娘。
そんな娘が小麦粉粘土に興味を示したのが、「色をつけた」ときでした。
保育園では他の子どもたちが小麦粉粘土に慣れ、食紅で色を付けて遊ぶようになっていました。
カラフルな小麦粉粘土に目を奪われた娘の中に「やってみたい」が生まれた瞬間でした。
「怖い」という気持ちはまだ残っていたはずです。
それでも娘は、自ら小麦粉粘土に指をつけに行きました。
STEP③親と一緒に
粘土状の小麦粉にも興味を持ったので、次の段階としては、実際に粘土遊びをして楽しさを感じてほしいというところでした。
触れるようになったからと言ってすぐに形を作ったりできるわけではありません。
こねるという行程が必要になるからです。
ここが難しいところでした。
こねるという動作は粘土の感触を手のひら全体で感じることになるため、感覚神経への刺激がそれだけ強くなります。
感覚過敏がある娘にとっては、ここが大きなハードルでした。
そこで、まずは粘土を親自身が全力で楽しんでみました。
娘は無理に参加せず、興味を持ったら一緒に遊ぶという形式にしました。
娘の好きなキャラクターを作ってみたり、ハンバーガーやピザ等、組み合わせることで形になるものを作ってみました。
その結果、はじめは見向きもしなかった娘が、まずは見るようになり、応援するようになり、アドバイスするようになり、ピザに飾りつけをしてくれるようになりました。
「こねる」ことはまだできずとも、小麦粉粘土で一緒に遊ぶことができた瞬間でした。
こうして振り返ると、ここまでの工夫は、発達心理学でいう「スモールステップ法」に近かったのかもしれません。
できることを少しずつ積み重ねて成功体験を重ねることは、 自己効力感(自分はできるという感覚)を育てることにつながります。
娘にとっても、小さな「できた」の積み重ねが、 次への意欲につながっていたのだと思います。
そしてこの積み重ねが、後にクッキー作りへの大きな一歩につながっていきます。
いつの間にか触ることが遊びになっていた

親も一緒になって遊ぶことで、娘はだんだんと粘土遊びの時間が好きになっていきました。
100円ショップに行って粘土コーナーを見ると、型を選んで「今度はこれやりたい」と持ってくるようになりました。
粘土をこねることは無理強いせず、娘の望む形に私が形を作ると、娘がそれを組み合わせて作品にする、というスタイルでした。
カラフルなアイスを作って、合わせて作ったカップやコーンに乗せるとき、なかなか安定せず落ちてしまいます。
娘は少し難しい顔をしながらも、自ら形を変形させ、無理やりでも乗せられるように整えました。
これが、娘が初めて自分から粘土をこねた瞬間でした。
それからだんだんと、少しずつですがこねる動作が増えていきました。
疲れて考えがまとまらない時には、ぼーっとしながら粘土を丸めていることもありました。
これは、感覚刺激を使って自分の気持ちを落ち着かせる 「セルフレギュレーション」に近い行動だったのかもしれません。
かつては怖くて触れなかった感触が、 今では娘自身を助ける道具になっていたのです。
娘の中で「粘土をこねる」という感覚が定着してきて、その感覚をむしろ楽しむようになっていたのです。
「作ってみたい」娘自らクッキーへ挑戦

ある日、私がクッキーを手作りしようと生地を作っていると、娘が興味を示しました。
以前の娘であれば苦手であろう作業ですが、きっと粘土に見えたのだと思います。
粘土遊びが好きになっていた娘は、「クッキーやってみたい」と自分から言ってくれました。
そこで私は、カラフルな色付き粘土に目を奪われた時のことを思い出し、ありとあらゆる色の食紅を買ってきて、カラフルなクッキーを作ることにしました。
作ったのは、キャラクタークッキー。
娘の描いたイラストをキャラクター化したり、娘の好きなキャラクターをイラストに起こして、型を作りました。
クッキー生地はバターが含まれるため、触りすぎると溶けてしまいます。
まだこねることが少ししかできない娘には、ちょうどいい素材でした。
色とりどりの生地をこねて伸ばして形を作って、娘はクッキー作りを楽しんでくれていたようでした。
一緒に作ったクッキーを娘が食べた日のこと

娘は好き嫌いも多く、クッキーも苦手なもののひとつでした。
発達障害の子どもにしばしば見られる偏食は、感覚過敏に由来する要素もあります。
特定の味や食感を不快に感じ取ってしまうことで、偏食につながるのです。
我が家の娘がなぜクッキーが苦手だったのかは詳しくは分かっていませんでしたが、市販のクッキーはほとんど食べたがりませんでした。
ですが、一緒に作って出来上がったクッキーを見たとき、娘が自分からつまみ食いをしたのです。
できたてはまだ熱く少し柔らかかったので、少し舐めてやめていました。
適温に冷めてからおやつに出してみると、すぐに食べ始めました。
そして、口から出してしまうことなく、「おいしい」ともくもくと食べていたのです。
さらに、おかわりまでしてたくさん食べました。
何にしても私には驚きの連続でした。
これには、いくつかの理由があったのだと思います。
食育の方法のひとつに「台所育児」というものがあります。
自分で作ったりお手伝いした料理は、食べる意欲が沸くというものです。
また、手作りのクッキーには市販品に使われるシナモンなどの香辛料や調味料を使わない、非常にシンプルな材料でできています。
甘さも調整できるので、感覚が鋭い子どもに刺激が強くなりすぎないよう、控えめにすることもできます。
このクッキーの出来事は、私にとって大きな発見でした。
実は、娘の偏食はクッキー以外にも多くありました。
このクッキーの出来事をきっかけに、 偏食と感覚過敏の関係について改めて考えるようになり、 我が家でも偏食への様々なアプローチを試してきました。
そちらについては、別の記事で詳しくお伝えしたいと思います。
「クッキー作りができたこと」「苦手だったクッキーを食べられたこと」そして何より「自分からやると言えたこと」「楽しめたこと」。
これが、娘と私の大きな財産になりました。
感触遊びが苦手だったはずが、いつの間にか粘土遊びができるようになり、粘土が好きになり、転じてクッキーまで挑戦できたのです。
まとめ|焦らなくて大丈夫、と今なら思う

我が家の娘は感覚過敏があり、保育園で行う感触遊びの粘土が苦手で、険しい顔をして活動を眺めていました。
「他の子はできるのに、うちの子はできていない」という現実に直面して、焦る日々もありました。
ですが、娘は「怖い」ながらも興味を持っていたので、少しずつではありますが挑戦していくことができました。
小麦粉に触れることから始めて、色付きの粘土に挑戦し、親と一緒に遊びながら、少しずつ「できる」を積み重ねていきました。
そうして「自分で」「楽しんで」、クッキー作りにも挑戦できたのです。
苦手だったはずのクッキーも、たくさん食べられました。
この出来事は、娘と私の成長の大きな一歩になりました。
娘は7歳になった今でも、粘土やスライム遊びが好きで、台所でのお手伝いも進んでやってくれます。
まだまだ挑戦できないこと、苦手なこと、怖いことも多くありますが、この経験がきっと娘の中に活きていくと思います。
クッキーをきっかけに気づいた偏食へのアプローチについては、また別の記事でじっくりお話しできればと思います。
「焦らない」「無理しない」ことが大切です。
まずはお子さんの興味や苦手を発見し、焦らず少しずつ、関わってみてください。


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